夏空と大きな愛とファイナルセール
研修医の終わりに酷いパワハラを受けて再起不能になった。
最終的に実家で療養した期間があるんだけど、長い時間ぼーっと空を見ていた。
母親が作ったごはんを食べて、可能な限りひなたぼっこをしていた。
太陽が「適応障害」を治してくれると信じていた。もちろん、本気ではない。これでも研修医で医者のはしくれだったので、一定の効果はあるが、それ以上の効果がないとも知っていた。
でも一切体を動かせなかったのだ。
「適応障害」とは簡単に言うと「特定の場所に行くと・人に会うと発症する鬱症状」みたいなもんである。簡単に言うと、なんとちっぽけな病気に聞こえるのだろう。
死に至るのに。
母親のごはんと太陽が治してくれたんだと思う、大きな愛情で。もちろん父にも猫にも犬にも感謝である。
そしてずっと空を見ていた。
今も変わらない同じ空を見ている。
あの遠い空から見た自分は本当に小さい存在で、
その小さい存在からする僕の悩みはもっと小さくて。
そんな風に思うと、
僕は自由に何をしてもいいのだと思えた。
もちろん、発症して職場復帰してから、10年経ってようやくそう思える。それだけ人は人に傷を与えることができるのかと、恐ろしくも感じる。
大きな愛情は心の傷を癒してくれたが、
傷跡を消すのには時間がかかることを初めて知った。
東京にいると本当に空が狭くて、緑がない。
日本は空が狭くて、緑がない国だったのかと改めて気づかされる。
それに比べてボストンはきれいな場所が多くて、
どこにいても大きな空と緑に包まれている。
Nordstrom Rackというお店をご存じだろうか?
僕はアメリカにきて初めて知ったんだが、色んなブランド品が安値で売っていて、
今日初めてその店舗で買い物した。
5月に一時帰国して夏服や足りないものを取ってこようと思っていたのだが、コロナの影響が強くて帰れず。この暑い中、長そで長ズボンで買い物に来た。
ハーフパンツやポロシャツ、半袖のワイシャツや、Tシャツ、それにサンダル。全部ブランド物で、計6品。中には「Brooklyn Brothers」「Nike」も入っていたが、全部で8千円程度であった。全ての商品が2000円以内で驚いた。
アメリカに来た時には、一度はチェックする価値はある。
そして、レジが終わったあとに「今日はファイナルセールよ!全商品40%OFF。買い残しはないかしら?」
それは早めに言ってほしかった。
いつもよりももっと安いのであった。
ついでにどれくらい安いのかというと、
見たことのある「Cole Haan」の靴が2000円で売ってるレベルである。
どういうことだろう。
お早いお帰りで。
電車で帰り、夕方5時には帰宅。気持ちのいい買い物であった。
平日の昼に夏服を買って、いい身分である。
全く身が引き締まらない留学生活であり、
東京にいるお偉い人たちが聞いたら、怒られそうである。
これも全部コロナのせい。
でも、僕のような小さな存在のたった1日のさぼりは、大きな世界からしたら大したことないのであることを、もう僕は知っている。
夏はすぐそばまで来ていて、
ボストンで初めての夏を迎えることになる。
身動きは取りづらいが、
新調した夏服で充実した夏は過ごせそうである。