『遺伝子再構成を調べといてよ』~T細胞受容体の多様性と遺伝子再構成のチェック
T細胞リンパ腫の患者さんの組織検体ゲットしたら、先輩に、
「遺伝子再構成(リアレンジメント)を調べろ」と言われて、
提出したけど、
「え?この検査って………なに?(そもそも先輩はリアレンジメントって意味知ってるのかな~)」
- この記事のテーマは
- T細胞が集まっていたら、T細胞の腫瘍なの?
- 『遺伝子再構成の検査』とはなんなのか。
- T細胞のもつT細胞受容体の単クローン性?
- 具体的に図で説明しよう。
- そして、『遺伝子再構成』という名前の使い方が良くない。
- まとめ
この記事のテーマは
新人の皮膚科医の先生が「T細胞の遺伝子再構成(リアレンジメント)」について理解できるようになること。
T細胞自体にも色んな種類がある。
CD4陽性T細胞だけでも、Th1,Th2,Th17,Treg…などなど。
しかし、今回はそのT細胞の種類の話ではない。
もっと細かいミクロな話である。
よくその『遺伝子再構成の検査』を提出する場面というのは、
ヘルパーT細胞の皮膚T細胞リンパ腫である菌状息肉症、通称ミコフン、を疑ったときである。患者さんの検体をホルマリンに入れずに提出するのである。
T細胞が集まっていたら、T細胞の腫瘍なの?
菌状息肉症(ミコフン)はCD4陽性T細胞の腫瘍である。
免疫染色した病理組織を見た時にCD4陽性T細胞リンパ腫だ、と思ったが、
感染を起こしたり、
炎症性疾患だったり、
そんな疾患の時もCD4陽性のリンパ球が集まる。
反対にミコフンだったとしても、
CD8陽性T細胞がある程度混同している組織だった場合、少し確定診断するのに不安である。なにせ、悪性腫瘍の検索であるから、やたらむやみに『ガンです』『ガンじゃありませんでした』なんて、根拠が薄いうちにはいえない。
そんなときに、
組織に集まっているこのT細胞の遺伝子再構成を調べる。
『遺伝子再構成の検査』とはなんなのか。
答え:T細胞受容体の検査
もっと正確にいうと、
T細胞受容体の単クローン性かどうかをみる検査
T細胞のもつT細胞受容体の単クローン性?
T細胞の持っているTCRにも色んな種類がある。
色んな種類の外敵からまもりたいのだが、
外敵を認識できるTCRは、
T細胞1個につき1種類しか持てない。
さらに1個のTCRは1種類の敵しか判別できない。
なので、色んなTCRを持ったT細胞を作り、
人間の体には100万種類以上のTCRがあり、
つまり100万種類以上のTCRを持ったT細胞がいる。
つまり、免疫染色の組織では同じCD4陽性細胞に見えていても、さらにミクロにみるとTCRの種類は千差万別であり、『TCRが多様である』=『正常』なのだ。
具体的に図で説明しよう。
T細胞の多様性とは。
T細胞が多数あつまっていて、全て同じように見える。
しかし正常の場合はTCRが多様である。
単一クローン性のTCRをもつT細胞とは。
1種類しかTCRがなければ、1種類の敵しか判別できない。
これは確かに異常である。
そして、『遺伝子再構成』という名前の使い方が良くない。
「遺伝子再構成(リアレンジメント)提出しといて」
どういう意味だよ。笑
ま、検査の名前になっていることが混同してしまう原因ですよね。
理由:
遺伝子再構成とは「多様なTCRを作る機序」であり、
がんを持っていなくても、どんな人も、遺伝子再構成は胸腺内で行われている。
ただたんに『遺伝子再構成の単クローン性を見る検査』を『遺伝子再構成』と呼んでいる。遺伝子再構成の機序に異常があったわけではない。
遺伝子再構成という多様なTCRを作る過程が胸腺で行われたのに、この組織には単一のTCRしかいない、ことが異常。
ここで注意
遺伝子再構成でTCRが単一の場合は腫瘍を疑う
しかし,遺伝子再構成でTCRが多様性=正常、ではない。
なぜなら、腫瘍でも多様性を示す場合があるからである。
まとめ
- 『遺伝子再構成』の検査はT細胞受容体の単クローン性かどうかをみる検査
- 正常な人はT細胞受容体(TCR)の種類は多様である。
- 単クローン性は腫瘍疑う。
- 多様性であっても、腫瘍を否定できない。